令和3(2021)年4月28日、所有者不明土地問題を解決する一環として、民法・土地登記の見直し等を内容とする「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有者の国庫への帰属に関する法律」が公布されました。

この改正法の施行(しこう:法律が効力を生じること)は原則として、公布の日である令和3(2021年)年4月28日から2年以内(令和5(2023)年4月28日まで)となっています(改正前附則1条本文等)。

しかし、相続登記の義務化は、罰則が定められることから国民に十分に知ってもらう必要があり、周知期間を長めにとる必要があることから、公布の日である令和3年4月28日から3年以内(令和6(2024)年4月28日まで)に施行されることになっています(改正附則1条2号)

また、所有土地と記録証明制度等は、登記情報システムの改修が必要なため公布の日である令和3年4月28日から5年以内(令和7(2025)年4月28日まで)に施行することになっています(改正附則1条3号)。

通常、改正法が施行された場合、改正の効力は生じるのは、施行後です。
しかし、今回の改正においては、①遺産分割における具体的相続分の期間制限、②相続登記の義務化、③住所等の変更登記の義務化など、施行後、前に遡って、遡及的に効果が生じる規定があります。

これらの規定については、施行前から注意を払う必要があるため、この記事を作成しました。

Ⅰ 遺産分割における寄与分や特別受益の期間制限について

今回の改正では、まず、
原則として、相続開始の時(被相続人が死亡した時)から10年を経過した場合は、遺産分割において、寄与分及び特別受益の規定は適用されない(認められない)(改正民法904条の3)と定められました。

例外として、相続開始のときから10年を経過する前に遺産分割調停の申立をした場合等を定めました。

このため、この改正法の施行された後は、寄与分(特に寄与分は調停でなければ請求できません。)等を請求する者は、相続開始の時から10年以内に遺産分割調停の申立をしなければなりません。

では、この改正法が施行される前に既に相続が開始した場合(例えば、2022年中に被相続人が死亡した場合)は、どうなるでしょうか。

これについては、a 相続開始から10年を経過する時又は、b 施行の時から、5年を経過する時のいずれか遅い時から、寄与分等の期間制限がされることになります(改正法附則3条)

したがって、改正法が施行される前に相続が開始された場合も、施行後、最低5年の猶予があることになります。寄与分又は特別受益を主張される場合は、この間に、遺産分割調停を申し立てる必要があります。

相続の場合、遺産の土地の価格が低い等の理由で、遺産分割の協議が行われないことがあり、それが続くと、所有者不明の土地が発生することになります。
改正法は、寄与分や特別受益の期間制限をすることにより、このような所有者不明の土地の発生を防ごうとしています。

Ⅱ 相続登記の義務化について

この改正法では、a 相続又は遺贈により所有権を取得した相続人及び b 法定相続登記又は相続人申告登記がされた後に遺産分割により所有権を取得した者に対して、登記申請義務を定めました。

そして、義務の発生日から3年を経過しても登記申請を行わない場合は、10万円以下の過料(かりょう:刑罰ではない金銭罰)を課すことができることを定めました(改正土地登記法76条の2)。

では、施行前に、相続が開始した場合や遺産分割が成立した場合はどうなるでしょうか。

この場合は、相続人は、a この改正法の施行日又は、b 自己のために相続開始があったことを知り、かつ、土地の所有権を取得したことを知った日のいずれか遅い日から3年以内に登記申請を行わなければ過料が課される可能性があります(改正法附則5条6項)。

そこで、この改正法の施行前に、相続の開始、遺産分割の合意等があり、その事実を知っていた場合は、施行後、最低3年間の期間の猶予があることになります。

この改正法は、相続、遺産分割による登記が行われないことが、所有者不明の土地が発生する大きな原因の一つであることから、このような登記申請義務を定め、過料の罰則を定めることにより、所有者不明の土地の発生を防止しようとしています。

Ⅲ 住所等の変更登記の義務化について

この改正法は所有権の登記名義人について、登記上の氏名、住所等に変更があった場合、その変更登記申請を行う義務を定めました。

そして、その変更の日から2年を経過しても、変更登記申請を行わない場合は、5万円以下の過料を課すことができることを定めました(改正土地登記法76条の5)。

ただし、住所等の変更は、相続より多く発生しますので、国民の負担を軽減する観点から、登記所が住基ネットから所有権の登記名義人の住所等の変更情報を取得して土地登記に反映させる仕組みをこの改正法は、設けることとしました。

施行日前に、住所等を変更した場合にも、この法律は適用されることになりますが、その場合は、施行日から、2年以内にその変更の登記を行う必要があります(改正法附則5条7項前段)。

登記名義人の住所等に変更が生じているにもかかわらず、放置されているケースも数多く、これが所有者不明の土地を発生させる大きな原因となっていることから、この改正法は、このような登記申請義務を定め、過料の罰則を定めることにより、所有者不明の土地の発生を防止しようとしています。

作成:2022(令和4)年3月3日