判例紹介

遺産分割後に発見された遺産の分け方(大阪高等裁判所令和元年7月17日決定 判時2446号28頁以下、判タ1475号79頁以下)

内容

本決定は、先行する遺産分割調停において仮に相続人間に取得する遺産の不均衡があったとしても、同遺産分割調停の意思解釈により遺産分割後に発見された遺産のみを法定相続分に従って分割すれば足りるとした決定です。

事案は、以下のとおりです(簡略化しています)。
被相続人Aが死亡しましたが、その相続人は、子であるXとYでした。
その後、Xが遺産である現金200万円を、Yが遺産である農地を取得する遺産分割調停(以下「本件遺産分割調停」といいます。)が成立しました。ところが、遺産分割調停の後に約1300万円の残高があるA名義の預貯金口座(以下「本件遺産」といいます。)が発見されました

XはYを相手方として、大阪家庭裁判所に遺産分割審判を申し立てました。
Xは、自分が相続した現金200万円と比較して、Yが取得した農地が著しく高く不均衡であり、本件遺産は全てXが相続すべきであると主張しました。
これに対し、大阪家庭裁判所は、本件遺産について、法定相続分により遺産分割する内容の審判をしたところ、Xはこれを不服として即時抗告しました。

Xの即時抗告に対し、大阪高等裁判所は、本件遺産分割調停について
「(注:先行する遺産分割協議について)相互に代償金の支払いを定めることもなく遺産分割協議が成立していることが認められることからすると、先行協議の当事者は、各相続人の取得する遺産の価格に差異があったとしても、そのことを是認していたものというべきである。
そうすると、先行協議の際に判明していた遺産の範囲においては、遺産分割として完結しており、その後の清算は予定されていなかったというべきであるから」
として、Xの抗告を棄却し、遺産分割後に発見された遺産のみを法定相続分に従って分割すれば足りるとした原審:大阪家庭裁判所の決定を維持しました。

説明

本決定において問題となったのは、遺産分割後に遺産が発見場合、当該遺産のみを法定相続分に分割することで足りるか、先行する遺産分割における不均衡を当該遺産の分配において修正し従前の遺産を含めた遺産全体について法定相続分に従った分割をすべきかです。
この問題について、本決定は、遺産分割後に発見された遺産のみを法定相続分に従って分割すれば足りるとの結論を出したことは前記のとおりです。

結果論ですが、そもそも本件が問題となったのは、先行する遺産分割調停において、新たに遺産が発見された場合について条項を作成しなかったためです。
実務上、「今後被相続人の新たな遺産が発見されたときは、法定相続分で分割する。」や、「新たな遺産が発見されときは、申立人(相手方)●●●●が取得する。」等の条項が設けられることがありますが、このような条項が設定されていれば、本件紛争は生じませんでした。

また、今後の対応としては、下記のようになります。
つまり、本決定は、先行する遺産分割調停の意思解釈を根拠としていますが、その理由として、判明していた遺産の範囲においては、遺産分割として完結していることを挙げています。
しかし、どのような遺産分割における合意又は調停でも、判明している遺産の範囲においては、遺産分割として完結しているものが大部分ですので、本決定に従えば、ほとんどの場合、新たに見つかった遺産は法定相続分で分割されることになるでしょう。
本決定は、高裁でのものですから最高裁で覆られない限り、これで、実務は進行することになります。
したがって、今後は、新たな遺産が見つかった場合に、法定相続分どおりでない分割を希望する時は、遺産分割の調停または合意書に、「新たな遺産が発見されときは、申立人(相手方)●●●●が取得する。」等の条項をつけておくことが必須になります。