私は、会社を経営し事業を行っています。私の妻は、5年前に亡くなり、私の相続人は、AとBの2人の子供です。
私は、現在、財産として、経営する会社の全株式(評価約5億円)、預貯金1億円があります。
私としては、Aに会社の株式全部を相続し会社を継いでもらい、Bには、預貯金1億円を相続してもらいたいと思っています。
AもBもこのことには、賛成しています
そこで、上記の内容の遺言書を作成しようと思います。
ただ、遺留分というのがあって、遺言書に定めても、そのとおりにならないことがあるということを聞きました。
私が亡くなった後、AとBが相続争いをすることを避けたいと思いますが、どうすればよいでしょうか。
本件の場合は、相談者が亡くなる前(相続開始前)にBに遺留分を放棄してもらえば、少なくとも遺留分侵害額請求権(改正前は遺留分減殺請求権)による紛争は防止できます。
ただし、遺留分を相続開始前に放棄するためには、後記のような裁判所の手続が必要になります。

遺留分とは、被相続人の贈与や遺贈、相続分の指定・特定財産承継遺言に関わらず、一定の相続人が遺産を受けることを保証するために、法律上定められている一定割合のことです。

遺言書で、遺贈や相続させる旨(特定財産承継遺言)を定めても、その内容が相続人の遺留分を侵害する場合は、侵害された相続人は、多く遺贈された相続人等に遺留分侵害額請求権を行使することができます。

本件のように相続人が子供2人の場合の子Bの個別的遺留分は、
1/2(法定相続分)×1/2=1/4
となります。
本HPで、「遺言書ではどの範囲の財産を自由に処分できるのか(遺留分の帰属及びその割合)」の記事で、遺留分の割合等について、説明しましたので、興味がある方は読んでいただければと思います。

Bは、1/4の個別的遺留分を持っていますので、仮に相談者が、Aに会社の株式全部を相続し、Bには預貯金1億円を相続してもらう内容の遺言書を残したとしても、その遺言書は、Bの遺産全部の価格5億円/4=1億2500万円の遺留分を侵害することになりますので、相続開始後、BはAに対し、遺留分侵害額請求権(改正前は、遺留分減殺請求権)に基づき2500万円の支払い請求を行うことができます

これを防ぐためには、相続開始前に、Bが遺留分を放棄することが考えられますが、このためには、家庭裁判所に遺留分放棄の許可審判申立を行う必要があります。

そこで、被相続人である相談者としては、Bにこのことを説明し、上記の申立をしてもらい、その上で、遺言書を作成することが必要です

なお、上記の申立の前提となった事情が変化し、遺留分を放棄した状態を維持することが客観的にみて不合理となった場合は、遺留分の放棄の取消しの申立を行い取消しの決定を取得することも可能です。たとえば、この放棄の申立には、Bの認識する相談者の財産を記載することが必要ですが、相続開始後、その遺産がBの認識より、遙かに膨大であった時など、この取消しが可能になりかねないので注意が必要です。

また、平成30年の民放の相続部分の改正により、遺留分の算定の基礎財産に含まれる被相続人から相続人の贈与等の範囲が、従前の無制限から原則、相続開始から10年以内のものに制限されました。この関係で、10年以上前に贈与を受けた相続人と他の相続人の公平を図るため、遺言書を残す場合に、そのままですと、他の相続人への遺贈等が贈与を受けた相続人の遺留分を侵害する可能性が増えましたので、注意が必要です。

遺言書作成に悩まれる場合は、弁護士に相談することをお勧めします。