令和元(2019)年7月●日、父Aが亡くなりました。母は、5年前に亡くなっています。
続人は、長男B、長女の私C、次男Dです。

父Aの遺産総額は、5000万円でしたが、銀行に600万円の債務があります。
父は、次男Dが3年前に独立して店を持つ際に、1600万円を贈与しました。
また、長男Bに4500万円を遺贈する旨の遺言書を残していました

私は、誰にどれだけの金額の遺留分侵害額請求権に基づく請求を行うことができるのでしょうか。

相談者Cは、長男Bに対し、遺留分侵害額請求権に基づいて、700万円を請求することができます

まず、遺留分を算定するための基礎財産を算定しなくてはなりません。そのための計算式は下記のようになります。

①相続開始時における被相続人の積極財産の額
+② 相続人における生前贈与の額(原則10年以内)
+③ 第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)
-④ 被相続人の債務の額

【堂薗幹一郎 外編著「一問一答 新しい相続法【第2版】」136頁】

そこで、本件の場合は、

①は5000万円、②は1600万円、③はなし、④は600万円となります。

したがって、①5000万円+②1600万円+③0円-④600万円=6000万円
となり、6000万円が基礎財産になります。

また、遺産総額から、長男への遺贈が控除されることになりますので、遺産の残額は、6000万円-4500万円=1500万円となりますので、B、C、D、それぞれが法定相続分(1/3)に基づくと、500万円ずつ相続することになりますが、同時に、それぞれ200万円の債務も相続することになります。

次に相談者であるCの遺留分侵害額を算定する必要があります。

遺留分侵害額とは、遺留分権利者(C)が遺産から遺留分に相当する財産を受け取ることができない場合の不足額を意味します。そのための計算式は、下記のとおりです。

遺留分侵害額
=(ア) 遺留分額
-(イ) 遺留分権利者が受けた特別受益の額
-(ウ) 遺産分割の対象財産がある場合において遺留分権利者の具体的相続分に相当する額
+(エ) 遺留分権利者が負担する債務

【片岡剛 外著「改正相続法と家庭裁判所の実務」239頁】

このため、本件Cの遺留分侵害額は、

(ア) 6000万円×1/6-(イ)0円-(ウ)500万円+(エ)200万円=700万円

となり、700万円が遺留分侵害額になります。

では、Cは、この700万円を、どのように請求できるでしょうか。本設問では、長男Bは4500万円の遺贈(遺言書により無償で譲渡すること)を受けており、次男Dは、1600万円の(生前)贈与を受けています。

このように贈与と遺贈が併存するときは、(Cの)遺留分侵害額は、まず,遺贈の受遺者(B)が負担し、それでも足りないときに初めて生前贈与の受贈者(D)が負担することになっています(民法1047条1項1号)。

これは、(生前)贈与については、贈与契約の効力として贈与財産が相続開始前に既に、相続財産からなくなっていることからです。

本件の場合は、Bに対し4500万円の遺贈が行われていますが、ここから、Cの遺留分侵害額である700万円を支払っても、残りがありますので、Dにまで請求されることはありません。

この例は、必ずしも複雑な例ではないのですが、このように遺留分侵害額等の計算は、複雑なので、実際に請求する際には、弁護士に相談することをおすすめします。