判例紹介

共有物の持分の価格が過半数を超える者が単独占有する他の相続人に対し明渡請求をすることができるか(最高裁昭和41年5月19日判決 民集20巻5号947頁)

内容

昭和の判例ですが、相続及び共有に共通し、紛争を解決するための前提となる重要判例であることから、ご紹介します。

事案は、下記のとおりですが、わかりやすいように省略して記載しています。

Aは、本件土地・建物を購入した。
Aには、妻X1と子Y及びX2~X8がいた。当初、Aと妻X1は、本件建物にY夫妻とともに居住していたが、その後、転居した。
転居の際に、Yとの間で、YがAに対し、仕送りする等の契約をしたが、Yが数ヶ月しか仕送りしなかったため、Aは、その契約を解除した。
Aは、Yに本件建物の明渡訴訟を提起したが、第一審の継続中にAが死亡し、X1~8及びYが共同相続人となった
X1~8は、本件建物につき、Yの使用借主の地位はAにより解約されていることを理由に明渡を求めた

最高裁は、
「共同相続に基づく共有者の一人であって、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」
として、X1~X8の明渡請求を認めませんでした。

説明

本判例は、共有物を単独占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるわけではないことを決めた点で重要な意味を有する判例です。

共有物を共有者の一人が単独占有する場合に、他の共有者が明渡を請求できるかが、争点です。というのは、その共有者も共有の持分権を持っており、その共有物を使用等する権利を有していますが、他方、民法は、共有物の管理について、各共有者の持分の価格に応じた過半数で決すると規定しているからです。

本判決は、過半数の持分権を有する共有者でも、過半数であるからといって、当然にその明渡を請求することができるわけではなく、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないとしました。

本判決のいう「明渡を求める理由」等については、複数の解釈がありますが、結論的に言えば、この判決後が、明渡が認められた裁判例としては、
被相続人の死亡後、従前、被相続人とその建物に居住していた相続人Xが居住を続けていたのに対し、突然、相続人Yがその妻と共に戻ってきて本件建物で生活を始めたうえ、仏壇や神棚を取り払い、居住していた相続人の衣類や生活用品などを外に出したため、やむなくXは居住していたその建物を出てアパートで生活することとなり、隣接する店舗で営んでいた理容業もできなくなった
という事案について、
Yに「同建物の共有持分権があっても右は権利濫用と評価されてやむを得ないものであって、このような事情が存在する場合においては多数持分権者である被控訴人らの少数持分権者である控訴人に対する同建物の明渡請求は許されると解するのが相当である」
として、明渡を認めた事案(仙台高等裁判所平成4年1月27日判決 金融・商事判例906法26頁以下)が目につく程度です。

また、明渡請求は認めないが、差止請求・原状回復請求が認められた事案についても、共有者の1人が共有の農地を宅地に変更しようとした事案(最高裁平成10年3月24日判決 判タ974号92頁以下)、持ち分二分の一の共有通路について共有者の一方から他方共有者に対する持分権に基づく通行妨害禁止、竹林の枝の摘除請求が認められた事例(横浜地方裁判所平成3年9月12日 判タ778号214頁以下)等、やはり、制限されています。

このように本件判例は、共有物を単独占有している共有者に対し他の共有者が明渡請求等をかなり制限しています

共有には、①複数が不動産を共同で購入した共有や、遺産分割合意がにより生じた共有等のいわゆる物権共有と、②相続の開始から遺産分割合意までの間の相続人間の過渡的な共有であるいわゆる遺産共有の二つがありますが、本件判例は、このどちらの共有にも適用されるものです。

本判例は、共有者の一人が共有持分を超えて単独で占有することに伴う不当利得返還請求や損害賠償請求を否定するものではありませんが、ただ、これもかなり制限されています(これについては、また、本HPに記載します)。

結局、物権共有、遺産共有を問わず、共有者の一人が共有物を単独占有している紛争の基本の解決方法は、物権共有の場合は共有物分割の交渉→訴訟、遺産共有の場合は遺産分割の協議→調停・審判ということになります