本HPでも「相続・共有に係わる近時の改正の効果が生じる日」等の記事で、ご説明したとおり、令和6年(2024年)4月1日から、相続又は遺産分割が行われてから3年以内に相続や遺産分割の登記をしなければならなくなります。

これにより、いままで、放置されていた相続の遺産分割等の手続が遡って、行われることが予想されます。しかし、相続に関する法律は、何度も改正されています。そのため、被相続人が亡くなった日がいつなのかなどにより、法定相続人、相続分等が異なることがあります。

このため、被相続人の死亡日、法律の施行日(成立した法令の効力が発生する日)、経過措置(法律が改正された場合、その移行中が移行完了後などに発生する不利益などを減らすための措置)を把握し、適用される法律を確定し、その内容を把握することが必要です。

明治民法は、明治31(1898)年7月16日に施行されましたが、この法律における相続は、社会における「家」制度を前提にするものであり、家督相続と遺産相続の二本立てとなっており、現在の相続制度とは、大きく違う法律でした。

第二次大戦後、昭和22(1947)年5月31日に現行憲法が公布されましたが、それまでには、民法の改正ができなかったことから、同日から約半年間(同年12月31日まで)については、応急措置法が制定され、適用されました。そして、昭和23(1948)年1月1日から、今の民法と地続きと言える新民法が施行されました。

そこで、ここでは、昭和23(1948)年1月1日からの法律の改正について、記載します。

むろん、今後、この昭和23(1948)年1月1日より前に亡くなった被相続人の相続が問題となることもありえますが、その場合は、文献(河瀬敏雄外著「第4版 旧民法・応急措置法から現行法 図解相続登記事例集」等)で当時の法律の内容を把握し、対応する必要があります。

また、昭和23年(1948)年1月1日以降についても、全ての改正の施行日、内容を網羅的に書くことは不可能でしたので、下記の記載はあくまで概略をつかむためにお使い下さい。

1 昭和23(1948)年1月1日から昭和55(1980)年12月31日までの相続に関する民法等の内容

(1) 施行日など

日本国憲法の施行を受け改正されたこの民法の施行日は、昭和23(1948)年1月1日です。また、「2」の昭和55年5月17日に改正された民法の施行日は昭和56(1981)年1月1日です。

さらに、「2」の経過措置は、「施行前に開始した相続に関しては」「改正前の民法の規定を適用する。」(附則(民法の一部改正に伴う経過措置)「2」)とされています。

そのため、下記(2)の民法が適用されるのは、この法律が施行された昭和23(1948)年1月1日から次に改正された民法が施行される前日である昭和55(1980)年12月31日までに開始した相続(この期間に被相続人の死亡があった相続)についてということになります。

(2) 相続分等の基本的部分での現行法(「2」以降)との相違点

ア 相続分-配偶者の相続分が現行法より小さいこと。
この期間の配偶者の相続分は、
子と共同相続人となるときは、3分の1(現行法では2分の1)、
直系尊属と共同相続人となるときは、2分の1(現行法では3分の2)
兄弟姉妹と共同相続人となるときは3分の2(現行法では4分の3)
と現行法より、配偶者の相続分が小さく、注意が必要です。

イ 非嫡出子の相続分が2分の1であること。
この時点での民法では、非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子)の相続分は嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子)の相続分の2分の1でした(当時の民法第900条第4号ただし書)。

これが、同じになるのは、後記「2」「(2)」記載のとおり、最高裁平成25(2013)年9月4日大法廷決定(民集67巻6号1320頁)により上記民法第900条第4号ただし書が違憲とされ、「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)により、平成25年9月5日以後に被相続人が死亡した相続について嫡出子と非嫡出子の相続分が同じとされてからです。

ウ 寄与分の制度がないこと
寄与分の制度は、昭和55年改正により新設された制度ですので、この期間の相続には適用されませんので、注意が必要です。

エ その他-昭和37(1962)年改正-代襲相続の範囲の拡張等
上記の期間の間に相続に関する改正が行われたのが、昭和37(1962)年です。この改正の施行日は、昭和37(1962)年7月1日です。また、経過措置は、「この法律による改正後の民法は、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、従前の民法によって生じた効力を妨げない。」(附 則(昭和37年3月二九日法律第四〇号)第2項)と定められています。

この改正は、①失踪宣告制度の改正(同時死亡の推定の新設、特別失踪の期間短縮(3年から1年)、同時生存の原則の廃止)、②代襲相続制度の改正(相続放棄を代襲原因から排除、再代襲相続を明記、相続権を直系卑属から子に変更(孫以下は代襲相続))、③その他(限定承認・放棄の取消方法の明記、特別縁故者制度の新設)などの内容を含みます。

この中で、相続分に影響が発生したのは、代襲相続制度の改正です。

この昭和37年改正により、兄弟姉妹の相続人についても再代襲等を認めたことから、(被相続人から見た場合)甥姪の子(孫)まで、相続人の範囲に含まれることになりました。

しかし、これにより相続人の範囲が著しく広くなり、実務的には、何十人もの代襲相続人を戸籍を追って確定し、遺産分割の協議や審判手続を進めなければならないという困難な状況になってしまいました。

そこで、昭和55年改正により、兄弟姉妹の代襲相続については、兄弟姉妹の子(被相続人から見て甥・姪)までに代襲相続人の範囲が制限されました。

このため、昭和37(1962)年7月1日から、昭和55年改正が施行される前日の昭和55(1980)年12月31日までの期間に発生した相続は、兄弟姉妹が相続人になる場合については、被相続人からみて甥・姪の子までは、代襲相続されることになり、注意が必要です。

2 昭和56(1981)年1月1日からの相続に関する民法等の内容

(1) 昭和55年改正

ア 施行日など
昭和55年改正の施行日は、昭和56(1981)年1月1日からです。そして経過措置は、前記のとおり、この施行日後、被相続人が死亡した相続にこの改正法が適用されるというものです。

現時点(令和6年2月29日)の相続人に関する民法等の基本的内容は、この改正によるものですが、この施行日以降、下記のような判例及び法改正が行われました。

(2) 最高裁判例

ア 最高裁平成25(2013)年9月4日大法廷決定(民集67巻6号1320頁)により非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分が等しくなりました。
この最高裁の大法廷決定により、民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分が違憲であると判断されたため、「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)が成立し、対象となる民法第900条第4号ただし書が削除され、非嫡出子と嫡出子の相続分は等しくなりました。

この法律は、公布の日である平成25年12月11日から施行され、経過措置としては、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとされました(附 則 (平成25年12月11日法律第94号))。したがって、平成25年9月5日以後に被相続人が死亡した場合、その相続における非嫡出子と嫡出子の相続分は等しくなりました。

イ 最高裁平成28(2016)年12月19日大法廷決定(民集70巻8号2121頁)及び最高裁平成29年4月6日判決(集民255号129頁)
このHPでも、「遺産分割前の預貯金の引出」の記事で、説明したとおり、従前、預貯金は、可分債権として、相続開始と同時に相続分に応じて各相続人に分割して承継されると解釈されてきました。しかし、上記の判決により、普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権、定期預金及び定期貯金債権については、判例が変更され、合意がなくても調停、審判においても、遺産分割の対象とされることになりました。

この判例を受けて、平成30年の民法等の改正(令和元(2019)年7月1日施行)により、Ⅰ 家庭裁判所の判断を経ない払戻を認める制度の創設、及びⅡ 預貯金債権の仮分割の仮処分について、上記のように引出の必要性が認められる場合についての要件を緩和したことは、上記の記事に記載したとおりです。

(2) 相続に関する法律の改正

以下では、改正法の施行日の順番で、説明していきます。

ア 平成31(2019)年1月13日施行
平成30年改正の内、自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)の方式が緩和される改正がこの日、施行されました。これにより、自筆証書遺言の財産目録は、自筆でなくともよい(ただし、各頁に署名・捺印は必要)とされ、この施行日から、そのような遺言も有効となりました。

本HPでは、これについて「続法の改正-遺言制度に関する改正」等で、説明しています。

イ 令和元(2019)年7月1日施行
平成30年の改正の内、多くのものが、この日に施行されました。この改正では、遺産分割等の改正・遺言執行者の権限の改正・相続の効力と対抗要件制度の改正・遺留分制度の改正・特別寄与料の制度の創設がこの日、施行されました。

遺産分割の効力についての改正については、本HPでは、以下の記事などで説明しています。

相続法(民法の相続部分)の改正により生じた遺言執行の落とし穴-登記を迅速に

相続法の改正-遺産分割の効力

また、遺留分減殺請求権が廃止され、遺留分侵害額請求権が創設されたことについては、本HPでは、以下のような記事で説明しました。

相続法の改正-遺留分侵害額請求権

遺留分侵害額請求権の時効

相続法の改正-特別寄与料の制度

ウ 令和2(2020)年4月1日施行
改正により、創設された配偶者居住権・配偶者短期居住権の創設が施行されました。

本HPでは、
相続法の改正-配偶者居住権の創設(配偶者短期居住権及び配偶者居住権)」で、これらの権利について、説明しています。

また、改正でも、通常は、債権法の改正と位置づけられていますが、不当利得に基づく返還請求権の時効の期間が旧法の10年から、原則:債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(例外:権利行使をすることができる時から10年)へ短縮されました(民法166条1項1及び2号)。

相続の際に問題となる使途不明金(相続人の一人が、被相続人の預貯金から生前又は死亡後にお金を引き出してその用途が不明な場合の問題)については、本HPでも「使途不明金の調査」の1~3において、記載していますが、このように被相続人の預貯金から引き出したお金について、他の相続人が返還を求める法的根拠は、この不当利得に基づく返還請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権です。

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効については、従前、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。」(旧民法724条)となっていたのが、それに加えて「人の生命又は身体を害する」場合は、5年に時効が伸びました。

そのため、使途不明金の場合は、従前と時効の期間は一緒です。

そこで、この改正の施行により時効の期間が長い不当利得について、時効が10年から、5年と半分になってしまったため、そのことに注意して、必要があれば、早急に訴訟提起を行うことが必要になりました。

エ 令和2(2020)年7月10日施行
法務局が自筆証書遺言を預かる自筆証書遺言書補完制度が始まりました。
このHPでは、私が実際この制度を利用してみた経過を、
自筆証書遺言書保管制度を使ってみました」という記事で記載しました。

オ 令和5(2023)年4月1日施行
財産管理制度・共有制度・相隣関係規定・相続制度の改正について、施行されました。

この「オ」、以降の「カ」及び「キ」の改正は、相続法の観点からの改正ではなく、日本全体の土地の内、22%あまりの所有者が不明であることから、この所有者不明の土地の問題を解決するための改正で、その一環として、相続に関連する法律が改正された点で、前記までの改正とは、目的が異なります。

この法律改正について、本HPで説明した記事としては、下記のようなものがあります。

相続・共有に係わる民法等の法律の改正(現時点で把握すべきこと)

裁判による共有物分割についての法律改正(上)

裁判による共有物分割についての法律改正(下)

カ 令和5年(2023年)4月27日施行
相続土地国庫帰属法が施行されました。

この法律については、本HPの
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律について」の記事で説明しています。

キ 令和6(2025)年4月1日
前記のように、相続登記及び遺産分割登記の申請の義務が生じるようになりました。

このように、相続に関連する法律は、その相続が開始した時期等により、内容が異なります。記載した改正の経緯を見て、現時点での法律と異なる場合に開始された相続については、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。