先日、母が亡くなりました。父は10年前に亡くなっており、相続人は、母より前に亡くなった兄の息子、及び妹の私の2人です。
この件について、以下の質問にお答え下さい。

【質問1】
母は生前、私の夫が自宅を購入する際に、500万円を私の夫に贈与しました。これは、私の特別受益になるのでしょうか。

【質問2】
母は、長男である兄の生前、兄が事業を行うにあたり、1000万円を贈与しました。これは、相続人となった息子に対する特別受益になるのでしょうか。

【質問3】
母は、生前、兄の息子に対し結婚の祝いとして、500万円を贈与しました。この贈与が①兄の死後行われた場合と、②兄の生前に行われた場合で、特別受益かどうかがの結論に影響はあるのでしょうか。

特別受益の制度とは、共同相続人の中に被相続人から遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組もしくは生計の資本として、贈与を受けた者がいる場合には、相続人間の実質的衡平を図るため、その贈与を相続財産に加算(持戻し)、これ(みなし相続財産)を基礎として一応の相続分を算出し、そこから各人の遺贈又は贈与の価格を控除して、その者の具体的相続分を算定する制度のことです。

ここでは、どのような者が特別受益者にあたるかについて説明します。したがって、ここで、被相続人からの贈与というのは、特別受益に該当しるものであることが前提です。

まず、質問1についてです。被相続人のお母様が共同相続人である私(相談者)の夫、つまり配偶者に贈与した場合、特別受益になるのでしょうか。

このように、被相続人が共同相続人の配偶者や子供等の親族に贈与をした場合、その贈与が特別受益になるかが問題となります

相続人の配偶者又は子供等の親族に対する被相続人からの贈与は、原則として特別受益にはならないとされています。このように解釈されているのは、相続人の配偶者・子等の親族に対する贈与まで特別受益に該当するとなると、特別受益者か否かの判断が困難となり、かえって紛争を増加させることになるためとされています。

しかし、例外として、このような贈与であっても、実質的に相続人に対する贈与であるのに、形式的にこれらの親族に対する名義で行われた場合は特別受益に当たるとされています。例えば、上記のような場合でも、送金先が相談者の口座である場合などは、そのように解釈される可能性が大きいです。

次に、質問2についてです。被相続人のお母様は、兄の生前、兄が事業を行うにあたり、1000万円を贈与しました。しかし、結果的に、お母様が亡くなる前にお兄様は死亡し(被代襲者:ひだいしゅうしゃ=推定相続人であったが、その者が被相続人の前に亡くなったことから代襲相続(だいしゅうそうぞく)が生じた者、本件の場合は兄です。)、その息子が代襲相続しています。この贈与は、その息子の特別受益になるでしょうか。

実務の大勢としては、このような贈与は、特別受益になるとしています(片岡武外編著 第4版「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」263頁外)。

理由は、代襲相続人(代襲相続をした者、本設問の場合は、兄の息子)は、被代襲者が生存していれば受けたであろう相続利益以上のものを取得すべきではないからです。

しかし、やや古いものですが、特別の高等教育を受けたことによる特別利益は、被代襲者である受益者の人格とともに消滅する一身専属的性格のものであるから、受益者が死亡した後は、代襲相続人に持ち戻しをさせないとした審判例(鹿児島家裁昭和44年6月25日審判 判タ249号302頁)、被相続人から被代襲者が受けた生前贈与は、代襲者が被代襲者を通して当該生前贈与により現実に経済的利益を受けている限度で特別利益を受けている限度で特別利益に該当しているとした審判例(徳島家裁昭和52年3月14日審判 家月30巻9号86頁)等もありますので、実質的な観点から若干の例外もありうるようです

とはいえ、現時点では、上記のように、このような被代襲者への贈与は、代襲相続人の特別受益になるという考え方が主流です。

最後に質問3です。

まず、①の代襲原因(兄の死亡)が生じた後の被相続人から代襲相続人への贈与が特別受益に当たることは争いがありません。

問題は、②の代襲原因(兄の死亡)が発生する前の被相続人から代襲相続人への贈与が特別受益にあたるかです。

大きくは、
否定説:代襲原因が発生する前の代襲相続者の特別利益は、持戻しの対象とならない。
と、
肯定説:贈与時の資格は問題ではなく、相続開始当時に共同相続人であれば、持戻しの対象になると考えるべきである。

等の説に分かれているようです。

しかし、裁判官の記載された文献では、否定説を「通説」(片岡武外編著「第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」263頁)、「その額が大きく、一見、特別受益に当たりそうであっても、それが特別受益になることはないとするのが実際です。」(山城司著「Q&A 遺産分割事件の手引き」232頁)としており、裁判所においては、否定説が基本のようです

特別受益については、このように難しい問題も多く、特別受益が問題となる場合は、相続に強い弁護士にご相談されることをお勧めします。